推薦文

元中京大学大学院MBAコース 客員教授 加藤靖慶先生

 

「齊田さんと私」

齊田さんと初めて口をきいたのは平成27年。齊田さんが経営コンサルタントとして独立され、私が勤めていた中京大学大学院ビジネス・イノベーション研究科で担当した講座「中小企業の経営革新」を履修されたのがきっかけであった。15回の通し講座を一回も欠かさず出席をされた。座る場所は教室左側の最前列。
私が困ったのは、毎回授業に関して鋭い質問をされることだった。なぜこんな質問をするのか、と私はなかば辟易して対応したこともあったくらいである。考えが合わないときは「私はこの問題に関しては先生の考え方と違います。私は自分のこれまでの経験からこうまとめたい」と言い、自説を展開された。私は時にはうなった。これは経営者として悩み、考え抜いた人でないと出せない結論だな、とうなったものである。
私は齊田さんに興味をもった。齊田さんの経歴をお聞きした。それで納得した。齊田さんは、経営コンサルタントとしてプロフェッショナルな実力を持っている人だった。授業の中で齊田さんに課題を与え、課題発表してもらうこともあった。それに対して、出席者一人ひとりからコメントを述べてもらい、参画型の楽しく充実した授業展開ができたのだった。
そして大学院最後の付き合いは、論文だった。平成29年度、大学院修了をするために通らなければならない必須課題である「修士学位論文」の指導教官に、齊田さんは私を指名してきた。私は、こちらも勉強になるので、齊田さんの指名にはすぐに応諾した。
ミーティングは4月から始まった。私は齊田さん以外に2名の論文指導を担当せねばならなかった。そのうち一人は難儀がともなう院生だった。そのため、齊田さんには極力自助努力で進めていただくようにした。はっきり言えば、齊田さんの修士論文は、20年間経営者として、ご自分のリーダーシップを確立するために能力開発に投資され、身につけたものを、中心軸にしてまとめればいいのであった。
その理論の中核は「トリポット経営」。これは「ビジョン」「お金」「人」の3つを融合させたシステム。この3つの問題解決が企業を発展させ、そして成長させるのだ。将来を考えるビジョンとはどんなものか、お金の面では見える化された会計のシステムの提示、人の面では仕組み化された人材育成の実践。これらの内容が論文の中で明らかにされ、経営理論として記述される。
しかし、夏場までは論文の作成は試行錯誤してなかなか前へ進まなかった。書いては後戻り、また書いては後戻りの時間が続いた。ただ、思考は研ぎ澄まされていくので、お盆過ぎにはどんどん前進した。
9月には一応の完成を見た。そして、校正に次ぐ校正の結果、10月には4万字を超える修士論文(実務論文)が出来上がった。大学院の規定では、学術論文は4万字以上、実務論文は2万字以上となっているので、齊田さんは学術論文並みの力作を残したのである。
齊田さんを一言でいえば、頑張り屋さん。とにかく粘り強く頑張る人だ。
債務超過企業を最終的には自己資本比率を40%に、銀行借入金実質ゼロ円にし、家業を事業に転身させた実力者が、論文でも遺憾なく実力を発揮した。
齊田さんの成功は、大卒の新入社員を採用できるようにしたことだと思う。中途採用の人間は、これまで別の職場の経験から頑固な考えを持っている者が多く、社長の考え方に沿わないことが多い。いくら実力があっても、いくら仕事ができても、基本的な経営理念を受け入れてもらえなければ、会社にとっては有為な人材にはならない。その点新卒者は世間に染まっていないケースがほとんどであるから、教育したことを身につけてくれ、結果として経営者の分身として育ってくれる。齊田さんの最も重要な仕事の一つが学校を回って新卒者をとることだった。
経営の成功は、社長の分身をいかに多く創り上げるかだと思う。齊田さんはこのことに注力した。
人材を人財にすることによって経営者として成功した齊田さんは、私にとっては一目も、二目もおく尊敬する人物である。